5月19日(日)、ウエル戸畑中ホールで行われた、北上田毅氏の講演会に行ってきました。
辺野古土砂の全国連絡協議会顧問である北上田氏は、抗議船の船長となり、現在も抗議活動の最前線に立ってらっしゃるそうです。
京都大学で土木工学を学んだ北上田氏の詳細な研究データには、沖縄防衛局や第三者である研究者・学者たちも一目置くほどの詳細な分析が施されているようです。
それは、昨年2018年から始まった辺野古新基地建設事業の最中に明らかになった、大浦湾の軟弱地盤に関する重大な問題点を指摘したことによって実証され、今後どのような手段をとって政府や国が事業を無理に進めても、「必ず辺野古新基地建設事業は頓挫する」と確信を持つに至っています。
ニュースを聞くだけでは半信半疑な人でも、氏の主張を知れば、政府の尋常ではない考え方に首をかしげざるを得ず、 この事業を無理に進める不可解さに誰もが気づくでしょう。
そのために、氏は全国各地へ飛び、講演を続け、支援の輪を広げているのではないかと思いました。
講演では、まず、現在の大浦湾周辺で行われている現在の工事状況を伝え、大浦湾の軟弱地盤を丁寧に解説されました。
*民意が示されるたびに、逆に強権姿勢をエスカレートする現政府。
「方針を変えるどころか、既成事実を積み重ね、県民を打ちのめし、無力感を味あわせ、あきらめさせようとしている」(2019.3.26 琉球新報社説より一部抜粋編集)
*工事は決して順調に進んでいない
・土砂を海上搬送してきても陸揚桟橋はK9護岸のみ
・当初の防衛局の県への届け出は、辺野古側での埋立は6ヶ月で終了予定だった
*肝心の大浦湾側での工事のめどは全く立っていない
・軟弱地盤の地盤改良工事を沖縄県知事は承認しない → 工事は頓挫する!
・全体の工期は大浦湾側での工事で決まる。いくら辺野古側で工事を進めても、工期は短縮されない。
さらに、今年の1月提出された『地盤に係る設計・施工の検討結果 報告書』には下記の解説があるそうです。
「(上図は、)ケーソン護岸部の海底地層断面図です。
B27地点では厚さ60m、海面下90m まで軟弱地盤が続いています。
さらに軟弱地盤は、護岸の基礎地盤だけではなく、埋立区域全域に広範に広がっています。
そのため、国は、大浦湾の埋立区域の6割以上(73ha)の範囲に7万7千本もの砂杭を打って、地盤改良工事を行うとしていました。
しかし国内の作業船は70mまでしか施工ができません。
そのため政府は、「70m以深は地盤改良しなくてもよい」と言い始めています。
このままでは安全性は確保できず、完成後には深刻な沈下が続くことになるでしょう。」
「軟弱地盤の実態と地盤改良工事の問題点」を氏が整理すると、下記となります。
1)N値ゼロの調査結果は2015年4月には判明していたので、政府は市民による情報公開請求まで3年間隠していたことになる。
2)海面下90mまで軟弱地盤だが、作業船の能力から海面下70mまでしか地盤改良ができない。
つまり、完成後も不等沈下は続く。しかも国内では65m、世界でも70mの実施例があるだけ。
3)大浦湾の埋め立て予定地の6割強、73haで地盤改良を行うために、7万7千本の砂杭を打設する予定。
4)敷砂・砂杭のために650万㎥もの砂が必要だが、調達先はあるのか?
5)地盤改良工事の工期は少なくとも5年が必要。
このためには最低でも11もの船団で同時施工する必要があるが、作業船の調達は可能なのか?
6)地盤改良工事による大浦湾の深刻な環境破壊が起こり、汚濁拡散と造成後も圧密沈下は続く。
土砂を搬出する側に視点を変えると、さらに難題が待ち構えています。
福岡県(北九州)からの土砂搬送で特に危惧される特定外来生物は、下記です。
(「埋め立て用材搬出予定地における外来生物分布 状況調査業務 報告書」2016.3 沖縄県)
動物類:セアカゴケグモ(9.0)、灰色ゴケぐも(9.0)、カミツキガメ(3.5)、ウシガエル(3.0)、ツマアカスズメバチ(4.5)
植物類:オオキンケイギク(5.5)、ミズヒマワリ(3.5)、ナルトサワギク(3.5)、ブラジルチドメグサ(3.5)、ナガエツルノゲイトウ(5.5)、アレチウリ(5.5)、オオフサモ(3.5)、ボタンウキグサ(3.5)
(数字はリスクレベル)
当面、予想される辺野古新基地建設事業の推移を考えても、これら軟弱地盤を抱える大浦湾での辺野古新基地建設事業は頓挫するとしか言いようがない様相です。
例えば、地盤改良工事の詳細設計は、この7月から20年3月までとされ、その後20年4月には沖縄県知事へ設計概要変更申請がなされる予定ですが、知事が不承認すれば工事は頓挫します。
仮に国が何らかの法的措置を施しても、この間も大金をドブに捨てるが如く辺野古側の埋立工事は続きます。
また、国が設計概要変更申請の不承認違法確認訴訟を起こした場合も、沖縄県が勝訴すれば工事は頓挫します。
国が勝訴すれば、実施設計の事前協議が始まり、地盤改良工事は進むかのように思えるけれども、そのためにはサンゴ類の移植が必要とされており、その数7万4千群体。そのために丸5年以上は必要と予測され、この移植工事が終わらなければ護岸工事や埋立工事はできません。
さらに県外からの土砂搬入は、土砂条例に基づく知事の中止勧告などで遅れることもあります。
またさらに、飛行場認証手続きや供用開始手続きなどが必要となるわけですが、果たしてここまでどれほどの歳月が必要となるのか。
今後も辺野古側の埋立工事が続けば、当初2,310億円と予測されていた工事費は2兆6500億円まで膨らむと予測されているそうです。
例えば、陸上海上警備費だけでも1日200万円、一年で7億3000万円、5年間で350億円もの経費がかかると予測され、さらに埋め立てに必要な土砂、いわゆる岩ズリは現在単価が当初の3倍になっており、単純に埋め立て費用だけでも3倍に達するとされているそうです。
ここで大きな疑問が湧きます。
これほどの経費をかけて、マヨネーズに軟弱で活断層もある土地になぜ、国は固執するのでしょうか。
しかも貴重なサンゴやジュゴンなど、豊かな生態系を育む自然を破壊してまで。
北上田氏が指摘するまでもなく、このように誰の目にも明らかな数字と民意の無視が繰り返されて、誰に何の得があるのか。
玉城沖縄県知事が工事不承認の姿勢を示し続け、県民が圧倒的な新基地反対の民意を示し続けること。
県民が諦めない強い意志があれば、軟弱地盤の大浦湾では永久に終わりそうにない難工事が続くだけなので、辺野古新基地建設は必ずや頓挫するという主張に大きな説得力があります。
また、土砂搬出を予定している12の県が、沖縄の上記のような現状を知って土砂搬出を断念すれば、さらに新基地建設の頓挫は確実となります。
数字の裏付けは事実の検証と重なり、現政府による難工事続行の不可解さが増すばかりの講演会でした。
『辺野古に基地はつくれない』山城博治・北上田毅著 岩波ブックレットNo.987 定価¥520+税
--------帯メッセージ --------
巨大、最新鋭の米軍基地の建設が強行される沖縄県・辺野古。
しかし、埋立予定地を調べてみたら、そこはマヨネーズ並みの軟弱地盤だった。
しかも、そのさらに底には活断層の存在まで強く疑われる。
貴重なサンゴ、ジュゴンをはじめとする豊かな生態系、そして人々の抵抗。
この工事は、無謀すぎる。