この11月、国連の下部組織である強制失踪委員会が、慰安婦問題に関する 日本政府の主張に対して重大な勧告を行いました。

そこで、12月1日現在、わかる範囲内で整理しましたので、 慰安婦問題の情報が溢れ混乱する中、少しでも参考になれば幸いです。

 

 

*11月19日、国連の強制失踪委員会による勧告*

 

11月19日、国連の強制失踪委員会は日本に対する審査の最終見解を公表しました。

報告書は、元慰安婦らへの補償は十分とは言えず、 2015年の日韓合意で「最終的かつ不可逆的に解決した」との日本政府の主張に対して、 「補償を求める被害者の権利を否定するもの」だと遺憾の意を示しました。 対日審査は11月5、6日に行われていました。

日本政府代表は慰安婦問題で「調査の結果、軍や官憲による『強制連行』を確認できるものはなかった」と主張。

アジア女性基金などを通じて日本が行ってきた問題解決の努力を説明していました。

しかし、強制失踪委員会は、旧日本軍の従軍慰安婦問題について、 「事実関係やデータを開示していないという情報がある」と指摘し、 「慰安婦やその子供の失踪について、遅滞なく完全な調査を行うべき」と、 日本政府に事実解明と責任者の処罰を勧告しました。

ただし、この委員会の最終見解に法的拘束力はありません。

(参照:産経新聞、共同通信11月20日付)

 

 

*強制失踪委員会および強制失踪条約とは*

 

では、日本に勧告した強制失踪委員会および強制失踪条約とは何でしょうか?

外務省HPを参照します。

 

強制失踪条約は,国の機関等が,人の自由をはく奪する行為であって,失踪者の所在を隠蔽すること等を伴い,かつ,法の保護の外に置くことを「強制失踪」と定義するとともに,「強制失踪」の犯罪化及び処罰を確保するための法的枠組み等について定めています。
同条約には,強制失踪が犯罪として処罰されるべきものであることが国際社会において確認されるとともに,将来にわたって同様の犯罪が繰り返されることを抑止する意義があります。また,拉致問題を含む強制失踪の問題への国際的な関心を高める上でも重要であることから,我が国からは,2017年から現在まで,寺谷広司東京大学大学院法学政治学研究科教授が委員を務めています。

 

強制失踪委員会は,強制失踪条約の実施に関する進捗状況を検討するため,同条約第26条に基づき設置されました。締約国の条約の実施状況に関する検討,失踪者の捜索に係る情報提供の要請及び勧告,個人からの通報の検討等を主な任務としています。
同委員会は,締約国により選出された10名の個人資格の専門家により構成されています。我が国からは,2017年から現在まで,寺谷広司東京大学大学院法学政治学研究科教授が委員を務めています。

(外務省HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/shissou/index.html

 

【補足】本条約は2006年12月国連総会本会議にて採択,2010年12月発効しました。 日本は,2007年同条約に署名,2009年7月に批准書を国際連合事務総長に寄託。 2010年当時、署名国は87か国でしたが, 2018年10月現在には署名国・地域数98/締約国・地域数59となっています。

(外務省HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_002111.html

 

強制失踪条約第26条

 

 

*今後の展開*

 

さて、日本政府は、強制失踪委員会の勧告に対してどう動くでしょうか。 この件について、東京早稲田で女たちの戦争と平和資料館(wam)の館長を務める 渡辺奈美さんにご意見を伺ったところ、 「日本政府は、委員会から何を勧告されようとも、きっと動かないでしょう」とのこと。 さもあらんという見解です。

 

現在、wamでは、「第15回特別展 日本人『慰安婦』の沈黙~国家に管理された性」を開催中です。 7月末までの会期が来年2月17日まで延長されました。 東京へ行く予定のある方は、ぜひ足を運ばれるといいと思います。

公文書や元日本兵の手記など、日本人の「慰安婦」が存在し、記録されていたことが 壁を埋め尽くしたパネルにぎっしり書かれています。

wamのHPで特別展を紹介する下記が印象的です。

 

女性が自ら性を管理されることを選んだかのように見せるシステム、 性暴力を女性に責任があることのようにとらえる視線、 被害の告発を許さない社会の空気は、今も続いています。

 

 

そうなのです。

被害者である女性たちが沈黙せざるを得ない社会は、悲しいかな、まだ続いています。

この現実を重く受け止め、広く知らしめるためか、 特別展はカタログにまとめられました。

wam館長の渡辺さんによると、ブラッシュアップされて印刷されたとのこと。

東京まで足を運べない方でもカタログは入手することができます。

過酷という言葉では足りない彼女たちの歴史をもっと知りたいと思われるならば、ぜひカタログを手に取り、その重さ以上の思いを受け止めてはいかがかと思います。

 

wamカタログ14 日本人「慰安婦」の沈黙~国家に管理された性

アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」編

定価:1,944円

頁数:フルカラー 56頁

発行:2018年5月

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