女たちの戦争と平和資料館(戦時性暴力「慰安婦」問題の被害と加害を伝える日本初の資料館:wam)では、今月15日から新しく第18回「中学生のための『慰安婦』展+教科書」を展示しています。
この展示では、wamの開館主旨である「慰安婦」問題が教科書でどのように扱われているかを学べるようです。
そこで、そもそも教科書の問題とは何かについて、1月15日(土)、オンライン講座でオープニングイベントが行われました。
長年にわたり制度そのものについて裁判にまでなったこともあったこの問題の本質について、経験に基づく解説を、ここにメモとして掲載しますのでご一読ください。
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講師は、業界で広く知られている吉田典裕さんでした。
日本出版労働組合連合会教科書対策部事務局長(出版労連)であり、
『教科書レポート』の編集に長く携わってきた方だそうです。
教科書問題に30年近く携わり、現在も教科書出版社に勤めているとのこと。
資料も盛りだくさんのレジュメが用意され、
予定の時間をかなり過ぎても話し足りないほど、
吉田さんはご自身が体験し考察してきたことをレポートされました。
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■はじめに そもそも「教科書」って何?
・教科書とは学校制度において使われる正式名称「教科用図書」であり、「法律における学校」において「教科の教材」として「生徒が扱う」もの。
・ただし、教科書を定義する「教科書の発行に関する臨時措置法」が制定された「1948年」とは、戦争直後。
・教科書は、隠れた「ベストセラー」であり、毎年制作されるのは1億冊以上。
・つまり、この冊数は文科省の枠組みにおいて制作されている「マスメディア」であり、ここに検定が入る余地が出てくる。
I. 教科書にはどんな種類があるのか
・教科書の種類は、文科省による検定を通った図書などに大別される。
・特に今後の教育を変えていくのが、「紙で制作された教科書」ではない「デジタル教科書」。
デジタルネイティブ、いわゆるZ世代が今後制作に携わっていくであろう未来の教科用図書。
II. 教科書制度を検討するための4つの要素:
検定・採択・供給・価格
1. 検定とは:検定者の主観と恣意を許し、政治の介入を許す制度
(1)そもそも教科書検定とは
●学校教育法により、「文部科学大臣が、教科書として適切か否かを審査し、これに合格したものを教科書として使用することを認める」ことが教科書検定である。
●この教科書検定制度は、「教科書の著作・編集を民間に委ねることにより、創意工夫を期待し、適切な教科書の確保を狙い」として設けられたとされている。
●さらに「教科書検定の必要性」として、「全国的な教育水準の維持向上、教育の機会均等の保障、適正な教育内容の維持、教育の中立性の確保」などの要請に応えるため、「小・中・高等学校等の教育課程の基準として学習指導要領を定める」とともに、教材として重要な役割を果たす教科書を検定するために実施している。
・上記の法律で保障された「出版の自由」について、ギネス記録にまでなった世界で一番長く32年間も民事裁判を争ったのが「教科書検定問題」。
・一定の要件を満たせば、教科書は「教科書発行者」として誰でも発行できる。
つまり、企業ではなく個人でも発行できる。
・問題は、教科書を「検定」に通すということは、「文科省の主張が入る」ということ。
・検定に合格しないと教科書は発行できない=教科学習に使えない。
・つまり、「検定」はオーサライズ(正式に公に認められている:authorize)ではなく、文科省=国による「間接的な検閲」であると言える。
(2)検定のサイクル
●検定のサイクルは、4年に1回、4年が1サイクルとなる。
(3)検定のプロセス
①4月の提出時には、文科省から偏見をもたれないため「白表紙」にする。
その後のプロセスは、いわゆる書籍の制作工程と同じ。
初校、再校、校了(最終チェック)となる。
②検定には3パターンあるが、ほとんどが(イ)。
(ア)検定意見はない=まれに「合格」がある
(イ)検定意見が付けられる=「決定留保」が通常。文科省から修正指示が入り、それに沿って修正完了したものが合格となる。
(ウ)あまりに(文科省による)意見が多い=一発「不合格」
③一冊の調査検定は合議制ではなく、一人の調査官が調べて意見をまとめる。
「検閲」と云われないために「具体的な修正指示」はなく、「検定意見」という付箋が訂正箇所に貼られる。
指示に沿って「訂正申請」を行い、合格を勝ち取る。
(4)検定制度の問題点
つまり、「政府の立場」にある課長待遇の一人の人間が「検定」という査定を行っていることが、問題である。
昔は合議制だった。
調査官がまとめた90%の調査書が検定意見として認められているため、実質的には調査官が検定を行っている。
たとえば、社会科が特に問題化しているのは、靖国主観を持つ人が連綿と調査官になっているから。
教育現場を知らない人が、教科書の策定に関わっていることも問題となっている。
①問題は、独立した機関ではなく、政府の立場の人間が採択に関わっている。
検定基準には学習指導要領に掲載されていることを必ず入れ、不足があれば不合格、余計なことが記載されても不合格となっているのが現状。
昨年は、「慰安婦」問題を掲載できなかった。
②「政府の統一的見解が必要」であれば、それは中立ではない。
したがって、「政府の見解に反対する人は調査官に任命されない」ことが問題となっている。
③検定基準の適用が曖昧。
例えば、調査官の主観が強いため「生物」が毎年問題となっている。
学科によって、存命中の作家の作品は掲載不可になる不可思議。
④「決定留保」の怖さは企業存続の危機につながり、冒険できない。
1989年までは「条件付き合格」あり、一旦検定の合格にして修正を続ける。
⑤法的拘束力のない「学習指導要領解説」を盾に、制作会社に修正を求める実質的検閲となった「検定意見」。
⑥著作者名や編集趣意書などの大量な書類作成が必要となり、手続きのための煩雑かつ大量な知識が必要不可欠。
4年に1度の改訂ならば、一編集者は最多7回しか制作できない。
そのため編集者として習熟できる機会が元々ない。辞書くらいしかないが検定はない。
⑦審査料は判型によって異なるが、頁あたり540円。
多額の制作費が必要となり、小さな会社では対応が厳しくなっている。
⑧最初に提出するものを「白表紙本」とするのは、著作権上秘密厳守ということ。
検定合格前に外部に内容を漏らさないという扱いにあった。
⑨上記⑧が行われる理由が、「新しい歴史教科書をつくる会」が検定制度を改悪に果たしてきた。
不合格を繰り返すたびに、文科省が検定を強化=教科書の自由を奪ってきた。
2. 採択:使う人が希望する教科書を決められない
採択制度の問題点とは:
・先生は教科書を選べない。
・指導する道具であるべき教科書を使えないことと同じ。
・採択地区によっても使える教科書が異なる。
・現場の意見が反映されているかというと義務教育は厳しい。
例えば採択地区は、鳥取県は3地区しかないが、東京都は50以上ある。
教科書を選択するために長所短所を書いて順位付けしていいと国会で保障されたが、実際はできていない。
高校は毎年1校別コースごとに採択できるため、学校の先生の意向が反映される。
しかし、義務教育の場合は、4年に1回のみ。
・見本本を送付するのは、企業自前のため、小さな教科書会社は到底対応できないため、機会均等ではない。
3. 供給:関係者の使命感に依存する制度がもたらしたもの
・僻地(山奥に生徒一人)でも届けなければならないが、教科書特約書店が届けなければならない。
・教科書及び教科書特約手数料が安い
・教科書の価格は、国(買い手)が決める。→税金を投入し、必然的に安くなる?
4. 価格:経済的手段による政治的統制
・競争がないから、価格が高い。
・競争原理が働かない。教科書特有の備蓄に多額な価格がかかる。
III. デジタル教科書の登場は何をもたらすか
・制度設計が間に合わなかったので、最初のデジタル教科書は紙媒体と同じだった。
・内容は、紙媒体と同じでないとダメ。
・アニメは使えない。
・検定制度があるから、デジタルの良さがない。
・経済界が要求したデジタル教科書の制作。
・インフラ整備とギガ構想「メクビット(MEXCBT)」が前提。
・「MEXCBT」構想では、デジタルによる統制=検定制度が構成できる。
・OSがどんどん変わるため、教科書会社の経営が持たず、潰れる可能性が高い。
●国連人権諸機関から改善勧告を受け続ける日本の教科書
・日本政府は多くの国際機関から改善勧告を受けても、きちんと制作してないと教科書会社のせいにして、すべて拒否して不誠実な対応を取り続けている。
(質疑応答は省略)
以上
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