文部科学省は8日、慰安婦問題や第2次大戦中の朝鮮半島からの徴用を巡る教科書の記述について、教科書会社5社から「従軍慰安婦」「強制連行」との記述の削除や変更の訂正申請があり、同日付で承認したと明らかにした。
現在使用されている教科書の他、来春から使われるものもある。
政府は4月、「従軍慰安婦」という表現は誤解を招く恐れがあるとして、単に「慰安婦」とするのが適切とする答弁書を閣議決定。
朝鮮半島から日本本土への労働者の動員を「強制連行」とひとくくりにする表現も適切でないとした。
一方、「いわゆる従軍慰安婦」という用語を使った1993年の河野洋平官房長官談話は「継承」する立場も記していた。
これを受け文科省は5月、社会科の教科書を発行する会社20社近くを対象に記述の訂正申請に関する異例の説明会を開き、例として6月末までに申請する日程を示していた。
関係者によると、これまで出たことがない訂正勧告の可能性にも触れたという。
文科省によると、教科書会社5社から合わせて29冊の記述について訂正申請があった。
5社は山川出版社、東京書籍、実教出版、清水書院、帝国書院。
教科書は、中学社会1点と、高校の地理歴史26点、公民2点の計29点。
「従軍慰安婦」では、多くが「慰安婦」に変更。
山川出版社は、中学社会科や高校の日本史の教科書にある「いわゆる従軍慰安婦」という記述をなくしたり「従軍」を削ったりした。
一方、清水書院は「いわゆる従軍慰安婦」との記述を維持した上で、注釈に「日本政府は、『慰安婦』という語を用いることが適切であるとしている」との政府見解を付記した。
「強制連行」「強制的に連行」では、「強制的な動員」としたり、「徴用」としたりした。
中学の社会科や高校の地理歴史、公民科の教科書は、2014年の教科書検定基準の改正で「政府見解がある場合はそれに基づいた記述」をすることが定められた。
<各教科書会社の主な訂正内容>
●山川出版社「中学歴史 日本と世界」
・訂正前 「『慰安施設』には、朝鮮・中国・フィリピンなどから女性が集められた(いわゆる従軍慰安婦)。」
・訂正後 「『慰安施設』には、日本・朝鮮・中国・フィリピンなどから女性が集められた。」
●実教出版「詳述歴史総合」
・訂正前 「いわゆる『従軍慰安婦』など、政府は解決済みとしているが、問題は多い。」
・訂正後 「『慰安婦』など、政府は解決済みとしているが、問題は多い。」
●東京書籍「新選日本史B」
・訂正前 「強制連行された労働者」
・訂正後 「強制的に動員された労働者」
●清水書院「日本史B 新訂版」
・訂正前 「多数の朝鮮人に加え、占領地域の中国人も強制連行し、酷使した。」
・訂正後 「多数の朝鮮人や中国人を政府決定にもとづき配置し、酷使した。」
(朝日新聞、NHK NEWS WEB、日本経済新聞、2021年9月8日配信)